【特別企画】
『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』
監修者・著者対談

第1回
ドラッカーは起業家をどのように捉えていたのか?

ドラッカーは起業家を二種類に分類していた

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天田
今日は、藤屋先生に監修者としてご協力いただいた書籍『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』(日本実業出版社)についてお話を伺いたいと思います。藤屋先生、よろしくお願いします。
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藤屋
よろしくお願いします。
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天田
さっそくですが、今回ドラッカーをテーマに本書を書くうえで感じたことをお伝えします。「ドラッカーを勉強していてよかったな〜」というのが率直な感想です。

これまで、藤屋先生が主宰する「ニッチ戦略塾」で学んできたことや実践してきたことがドラッカーの言葉の中にいくつも見出すことができたからです。
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藤屋
お役に立ててよかったです。
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天田
なかでも今回、数多く引用させてもらったのが『イノベーションと企業家精神』(P.F.ドラッカー著、上田惇生訳/ダイヤモンド社)です。

まず初めにお伺いしたいのですが、そもそもドラッカーは起業家(企業家)という存在をどのように捉えていたのでしょうか?
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藤屋
ドラッカーは企業を起こす人を二通りに分類していました。一つはベンチャー(企業家)、もう一つはアントレプレナー(起業家)です。

「ベンチャー(企業家)」は、例えるならばイタリアンレストランを開業する人。彼は資金や人材をはじめ、開業までに様々なリスクを負っていますが、なにか社会に対して画期的なものを生み出しているわけではありません。

もう一つの「アントレプレナー(起業家)」は、仕組みから新しいものを生み出す人のことを指します。

たとえば、マクドナルドは世界一有名なハンバーガーショップですが、はじめからチェーン展開できるようにすべてを規格化しています。マクドナルドが生まれた当時、これは画期的なイノベーションでした。夫婦でやっている個人店とは、マネジメントの仕組みが全く異なるからです。
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天田
なるほど。アントレプレナーはイノベーションを伴う。そうすると、今の日本のビジネス環境を見たとき、果たしてドラッカーが定義するアントレプレナーはどれくらい存在するでしょうか?
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藤屋
残念ながらほとんどいないでしょうね。
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天田
やっぱり、そうですか…。
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藤屋
だから逆に、起業家は大きく成長できるのだと思います。

成長には二通りあって、質的な成長と量的な成長があります。規模的な成長を追うタイプと規模は追わずにしっかり稼ぐタイプ。どちらも成長という点では同じですが、ドラッカーは「かならずしも規模的な成長は必要ないが、質的な成長は必要である」と言っています。

両方を兼ね備えるのが理想かもしれませんが、本書のテーマのように「ひとりでやる」のであれば、質的な成長を目指し、他社から真似されない仕組みをつくるのが起業時には必要です。
『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』。ドラッカーのニッチ戦略をベースとした「藤屋式ニッチ戦略」の入門書。競争しないで賢く稼ぐための様々な考え方や先輩事例が1冊に凝縮されている

■成長とともに「適所」は変わる

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天田
私自身「ひとり起業」で15年、会社をつくって12年目を迎えました。ドラッカー理論をベースとしたニッチ戦略を学んで7年が経過し、とくにこの数年はニッチ戦略に大いに助けられたように感じています。

あらためて、この「ひとり起業」と「ニッチ戦略」の相性や親和性について教えてください。
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藤屋
まずは、この「ニッチ戦略」の定義をしておきたいと思います。

少し難しく感じるかもしれませんが、私は「ニッチ戦略」と「生態的ニッチ戦略」に分けています。ニッチ戦略は、一般的に「すき間戦略」と言われていますが、ドラッカーのいうニッチはすき間戦略ではなく、「生態的ニッチ」(エコロジカルニッチ)なのです。
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天田
厳密には違うんですね。
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藤屋
生態的ニッチとは、「生態的な適所」を指します。ニッチの語源はラテン語でnidusといい、本来「巣」を意味するものですが、安心、安全で占有できる空間や場所のことを指します。

ひとりで起業する場合には、ある程度、市場や商品、顧客を絞り込んで、安心、安全で独り占めできるような事業が理想です。
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天田
ニッチ戦略塾で勉強しました。
藤屋先生の強みは、極力専門用語を使わないわかりやすさ。ドラッカーの著書を250回以上読み込むことによって鍛えられたという
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藤屋
ダーウィンが残した進化論の概念のなかに「適者生存」と呼ばれるものがあります。生存競争においては、環境に最も適応したものだけが生き残って子孫を残しうるという考えです。つまり、結果論なんです。
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天田
なるほど。変化への適応力が問われるんですね。
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藤屋
このことから、ビジネスにおいては「適所生存」とも言うことができます。

「もっともふさわしい場所(市場)」にいると、生き残ることができる。さらにいえば「適所繁栄」。もっともふさわしい場所(市場)で、利益率が高い事業をすることが必要です。
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天田
適所繁栄はビジネスの理想形ですね。ストレスもなくて毎日が楽しそう。
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藤屋
これを人間にたとえてみましょう。

赤ちゃんの適所は保護者の近くですね。幼児になると保育園や幼稚園に通います。小学校になると周囲の人間関係がはっきりとしはじめます。やがて、中学、高校、大学と進学するうちに行動範囲が広がり、自分で物事を決められるようになる。

つまり、成長とともに適所は変わるんです。大切なことは、適所は固定化されたものでなく、自分のその時のもっともふさわしい場所に身を置くことです。これが「生態的ニッチ」の基本的な考え方です。
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天田
ということは、ひとり起業も成長とともに適所が変わるということですね。

今回のテーマは「ひとり起業」ですが、私のようなひとり起業だけでなく、事例には規模が大きくなった起業家が何人も登場します。
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藤屋
そこで、一つ考えていただきたいことは「利益が先か、売上が先か」という問題です。一つの理論として、売上がたくさんないと質を追求できない。利益をしっかり上げないと、いくら売上があっても儲からないという問題があります。
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天田
利益を追求することの大切さがわかります。
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藤屋
利益を優先するところには、必ず売り上げがついてきます。しかし、売上には利益のない売上も含まれる。中小零細企業の多くはこのジレンマに悩んでいます。
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天田
利益を伴わない売上…。
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藤屋
中小零細企業には、仕事を回す目的であったり、運転資金を確保するための売上というのが過分にあります。景気が良いときは問題ありませんが、いったん不況になると会社ごと吹き飛んでしまいかねません。
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天田
それは恐ろしいですね…。
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藤屋
このことから、たとえひとりであっても起業する時には、こちらの望む価格で買ってくれる顧客を探すことが大切です。これも適所の一つです。そのために必要な考え方が、棲み分けと食い分けです。
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天田
棲み分けと食い分け?
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藤屋
棲み分けは、住む場所を変えること。これは専門的に言うと、市場におけるポジショニングです。食い分けは、同じように見えても食べる場所が違うこと。つまり、ニーズを見極めて商品やサービス、提供方法を変化させることです。
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天田
本書に登場する先輩事例のなかで、印象に残っている起業家はいらっしゃいましたか?
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藤屋
「over E」の和田真由子さんですね。彼女は「胸が大きくて着る服がない」というジレンマから「胸が大きい女性のためのアパレルメーカー」を起業しました。これこそ、他社が真似のできない事業の象徴だと思いました。
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天田
私もいたく感動しました。「胸を張って生きていく、運命の一枚を」というキャッチコピーがまたすばらしいんです。胸の大きな女性が何に困っているのかをよく理解されていて、晴れ着というよりは「職場で着る日常着」にこだわった点が特徴です。
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藤屋
もうひとりは、クレーム対応コンサルタントの堀北祐司さんです。大手電機メーカーのコールセンターでクレーム対応の仕事で追い詰められてうつ病にもなった経験から、マイナスをプラスに変えるプロセスを発明しました。それをビジネスにしたという点が秀逸です。
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天田
コールセンターの仕事はとても過酷です。逃げるのではなく、どうストレスと向き合っていくのか。それを自分の体験をベースに第三者にも役立つ内容にしたんですね。

(つづく)

つづきはこちら
【第2回】監修者・藤屋伸二「ひとり起業物語」
【第3回】予期せぬ成功・失敗を受け止めよ

【監修者】
藤屋 伸二 Shinji Fujiya
藤屋式ニッチ戦略塾 主宰
藤屋ニッチ戦略研究所株式会社 代表取締役
ドラッカーの著書を250回以上読み込んで独自のコンサルティング手法を編み出し、300社以上の業績伸長やV字回復を支援。現在は「生態的ニッチ戦略」を継続的に勉強するための会員制経営セミナーの開催やFC展開をはじめ講師、執筆活動などに注力している。著書『図解で学ぶドラッカー入門』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ドラッカーに学ぶニッチ戦略の教科書』(ダイレクト出版)をはじめ多数。著書・監修書の累計発行部数は231万部(電子版・海外版を含む)。 

【著者】
天田 幸宏 Yukihiro Amada
独自化戦略コンサルタント/ニッチ戦略士
コンセプトワークス株式会社 代表取締役
1973年生まれ。リクルート(現アントレ)発行の起業支援情報誌『アントレ』の編集者として、18年間でのべ3000人以上の起業家および予備軍を見てきた。個人的にも起業支援に取り組むなかで、起業家の書籍出版をサポート。これまで70人以上をプロデュースした実績をもつ。2012年より本書の監修者である藤屋伸二氏に師事し、ドラッカー理論をベースとした「ニッチ戦略」を学ぶ。2017年より藤屋氏が主宰するドラッカー理論をもとにした「藤屋式ニッチ戦略塾」は全国6か所で展開されるうちの1つ銀座塾を担当。経営者や個人事業主、起業家予備軍を対象に事業推進、目標達成のためのコンサルティングや研修、パーソナルセッションを行う。

ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書

 天田 幸宏 著/藤屋 伸二 監修
 【発売日】2019年10月
 【定価】1,500円+税
 【ISBNコード】978-4534057280
 【出版社】日本実業出版社

つづきはこちら
【第2回】監修者・藤屋伸二「ひとり起業物語」
【第3回】予期せぬ成功・失敗を受け止めよ