【特別企画】
『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』
著者・監修者対談

【第1回】ドラッカーは起業家をどのように捉えていたのか?
【第2回】監修者・藤屋伸二「ひとり起業物語」

第3回
予期せぬ成功・失敗を受け止めよ

基本と原則に反するものは、例外なく破綻する

流行に惑わされることなく、「これだ!」と感じる本との出会いが人生を変える
avatar
天田
これから起業する人たちへのメッセージやアドバイスをいただきたいと思います。起業の準備においてやっておくべきことは何でしょうか。
avatar
藤屋
2つあります。一つは自分の強みは何なのか。どんなことが人より上手にできるのかを特定すること。もう一つは、ビジネスの基本を身につけておくことです。
avatar
天田
なるほど。
avatar
藤屋
ドラッカーが残した言葉が参考になると思います。『マネジメント』(エッセンシャル版)より引用します。

「しかも、極めて重要な「しかし」があった。それは、いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく時を経ずに破綻するという事実だった。基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである」
avatar
天田
独特の言い回しですね…。一回読んだだけでは意味がよくわかりません。
avatar
藤屋
ここでいう風潮とは、時代の傾向や経済学者や研究者が提言する理論のようなものです。これらの理論は彼らの商品開発だと思ってください。あとから出てきた理論が正しいとは限りません。

それよりもビジネスには「原理原則」というものがあります。それをきちんと理解することが大切です。
avatar
天田
少し安心しました。
avatar
藤屋
このように、ドラッカーの『マネジメント』は難解です。ですので、まずはこの『ひとり起業の強化書』をしっかり読み込むことをおすすめします。本書が敢えて「強化書」としているのは、基本を学んでそれを実践することの重要性を訴えたいからでしょう。
avatar
天田
さっそくのご推薦、ありがとうございます!
avatar
藤屋
20冊の本を読むよりも「これだ!」と思える本を20回読む方が身につきます。起業準備にはそういった地道な努力が必要だと思います。
『ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書』。ドラッカーのニッチ戦略をベースとした「藤屋式ニッチ戦略」の入門書。競争しないで賢く稼ぐための様々な考え方や先輩事例が1冊に凝縮されている

■予期せぬ成功、失敗を受け止めよ

avatar
天田
ちなみに、先生は24年前にどんな準備をなさったのですか?
avatar
藤屋
私は中小企業診断士と社会保険労務士の資格を取得しました。でも、すぐに食えないことがわかりました(笑)。ある先輩が教えてくれたんですけど、「資格というものは足の裏についた米粒だ。取らないと気になるが、取っても食えない」
avatar
天田
あはは。わかりやすいですね!
avatar
藤屋
塾生さんの中に「コンサルタントになりたい」という人がいます。彼は中小企業診断士の資格を取りたいと言っているのですが、私は「やめなさい」と言いました。なぜなら、彼はすでに充分食えるようになったからです。
avatar
天田
それはすばらしい。
avatar
藤屋
彼の強みは営業力です。その営業力を生かしてもっと顧客開拓をすればいい。資格取得のために1000時間も2000時間も勉強するのはもったいない。ニッチ戦略という基本を学んでいるのですから、あとは徹底するだけです。
avatar
天田
逆に「やってはいけないこと」について教えてください。
avatar
藤屋
まず、言えることは、「あれも、これも」を捨てること
avatar
天田
過去の私のことのようです…。
avatar
藤屋
「誰でもいいから買って」「何でもいいから買って」じゃないんです。「これを、あなた、買って」でなければならない。
avatar
天田
「顧客」と「ニーズ」を絞り込むんですね。
avatar
藤屋
ただし、そのとおりに売れることはまずありません。ビジネスには予期せぬ失敗、予期せぬ成功があります。「絶対に売れる!」と思ったものが売れない。想定していない人が買ってくれた。想定外の使い方をされた。どれも市場の現実です。そういった現実を受け止めながら、理想の事業を作り上げていくのです。
avatar
天田
得てして、私たちは予期せぬ成功のようなものに一喜一憂しています。しかし、なかなかその成功体験を次に生かすことができません。
avatar
藤屋
顧客が買いたいものを売るんじゃなくて、売りたいものを売っているからです。「それは違う」とドラッカーは言っています。あらゆる事業は多様なニーズに対応する「市場指向」でなければなりません
avatar
天田
うう、耳が痛いです。
avatar
藤屋
想定外の失敗は「誰に、何を、どのように」というビジネスの基本が少しずれていることがおもな原因です。これを少しずつずらしたり、変えていくとよいでしょう。トライ&エラーの精神です。
avatar
天田
この3つをほんの少しずらすだけで、まったく変わった商品やサービスが生まれますね。ただ、言うのは簡単ですが、実行するのは難しいと実感しています。
avatar
藤屋
かつて、私は中小企業診断士として創業支援の仕事をたくさんさせてもらいました。そこでわかったことは、こだわりを追求するあまり自分のやり方や技術、信念に固執してしまう人の危うさです。技術系の大企業出身で、退職金を2000万円ほどつぎ込んで失敗した方もいます。
avatar
天田
こだわりと固執はちがうんですね。
avatar
藤屋
こだわらなくてはいけないけれど、その対象は変わっていくんです。これが市場指向の考え方です。
起業家に求められる力の一つが、予期せぬ成功や出会いを引き寄せる「セレンディピティ」

■起業家における「次のステージ」に行く方法

avatar
天田
書籍のいちばんの魅力は、「誰が読んでくれるかわからない」ことにあると思います。私もこの先、どんな読者との出会いがあるのか楽しみです。先生はご自身の体験のなかで、なにか印象に残っていることはありますか?
avatar
藤屋
かつて、『20代から身につけたいドラッカー』というテーマで執筆のご依頼をいただき、「思考法」「マーケティング」「リーダーシップ」をテーマにした三部作が合計12万部ほど売れました。

※上記書籍は3冊分が1冊に凝縮され『ドラッカー思考法大全』(KADOKAWA)として、発売中。

avatar
天田
12万部。それはすごい!
avatar
藤屋
ところが、実際に読んでくれたのは30代、40代の方が多かったんです。こちらは20代を想定していますのでできるだけわかりやすく書いたところ、その「わかりやすさ」を期待してくれた30代以上の読者が大勢いたということです。ドラッカーの読者層が若手ではないことはある程度理解していましたが、これは予期せぬ成功でした。
avatar
天田
こういった予期せぬ成功や出会いを引き寄せる力を英語で「セレンディピティ」といいますが、これは起業家に最も必要な力のひとつと言われています。
avatar
藤屋
創業される方によくお伝えするのですが、起業家の成長・発達段階は実際は階段のようになっています。ある段階でものすごく活躍したり努力すると、次のステージの人が助けてくれたり、ぐいっと引き上げてくれる。決して自分ひとりで行けるようなものではありません。
avatar
天田
努力を続けるかぎり、次のステージは用意されているんですね。なんだか勇気が湧いてきました。

■実行できないことは単なる雑学でしかない

avatar
天田
起業準備における「勉強」についてもお伺いしたいと思います。また、起業後はどのような勉強を続けていく必要があるのでしょうか。
avatar
藤屋
ドラッカーは「70代が最も生産的だった」と自身を振り返っています。私もドラッカーだけで2万時間以上は読んでいますが、言うまでもなく起業家にとって勉強は必要です。
avatar
天田
なにかのプロになるには「1万時間の法則」が知られていますが、それをはるかに超えてますね。
avatar
藤屋
一つ言えることは勉強オタク、セミナーオタクになってはいけません。学んだことは、実践しなければ意味がないんです。人間にはキャパがありますから、いろんなところで学んだことを一つにまとめて実行することはむずかしい。実行できないことは、単なる雑学でしかありません
avatar
天田
どきっ。
avatar
藤屋
だから私はドラッカーに絞って勉強したんです。ドラッカーを読み始めた当初は1時間に10ページくらいしか頭に入りませんでした。ドラッカーの本は最低でも300ページはありますから、とにかく理解できるまで何度も繰り返し読み、実践することにしました。
avatar
天田
気が遠くなるような話ですね。だからドラッカーは途中で挫折してしまう人が多いんですね。
avatar
藤屋
1ヶ月に10冊読むことを目標にしている人がいますが、私からすればいったいどんな目的があって10冊読むのかと聞きたい。おそらくドラッカーのような専門書を読むことはむずかしいでしょう。私の経験からすると、ドラッカーは週に1冊が限界です。
avatar
天田
私も3000冊以上あった蔵書の大半を処分して、必要なものだけ厳選して残すようにしたところ、同じ本を繰り返し読むようになりました。
avatar
藤屋
「これ」と決めた1冊を厳選して読み込んで実践することが、起業家として成長する近道だと思います。
avatar
天田
具体的な勉強法、読書法までいただき、ありがとうございます。

(つづく)

バックナンバーはこちら
【第1回】ドラッカーは起業家をどのように捉えていたのか?
【第2回】監修者・藤屋伸二「ひとり起業物語」

【監修者】
藤屋 伸二 Shinji Fujiya
藤屋式ニッチ戦略塾 主宰
藤屋ニッチ戦略研究所株式会社 代表取締役
ドラッカーの著書を250回以上読み込んで独自のコンサルティング手法を編み出し、300社以上の業績伸長やV字回復を支援。現在は「生態的ニッチ戦略」を継続的に勉強するための会員制経営セミナーの開催やFC展開をはじめ講師、執筆活動などに注力している。著書『図解で学ぶドラッカー入門』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ドラッカーに学ぶニッチ戦略の教科書』(ダイレクト出版)をはじめ多数。著書・監修書の累計発行部数は231万部(電子版・海外版を含む)。 

【著者】
天田 幸宏 Yukihiro Amada
独自化戦略コンサルタント/ニッチ戦略士
コンセプトワークス株式会社 代表取締役
1973年生まれ。リクルート(現アントレ)発行の起業支援情報誌『アントレ』の編集者として、18年間でのべ3000人以上の起業家および予備軍を見てきた。個人的にも起業支援に取り組むなかで、起業家の書籍出版をサポート。これまで70人以上をプロデュースした実績をもつ。2012年より本書の監修者である藤屋伸二氏に師事し、ドラッカー理論をベースとした「ニッチ戦略」を学ぶ。2017年より藤屋氏が主宰するドラッカー理論をもとにした「藤屋式ニッチ戦略塾」は全国6か所で展開されるうちの1つ銀座塾を担当。経営者や個人事業主、起業家予備軍を対象に事業推進、目標達成のためのコンサルティングや研修、パーソナルセッションを行う。

ドラッカー理論で成功する「ひとり起業」の強化書

バックナンバーはこちら
【第1回】ドラッカーは起業家をどのように捉えていたのか?
【第2回】監修者・藤屋伸二「ひとり起業物語」